公立学校の保護者に対する調査報告義務に関する裁判例

    盛岡地裁平成29年11月10日判決

 本日,当研究会の勉強会を開催しました。

 今回は,スポーツにまつわる比較的新しい裁判例として,盛岡地裁平成29年11月10日判決について検討を行いました。

 この裁判は,県立高校に在学中の生徒が,自身の参加する男子バレーボール部の顧問から日常的に暴力や暴言等を受けたことにより,心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の精神障害を発症し不登校を余儀なくされて精神的苦痛等の損害を被ったなどと主張して,顧問と県に対して損害賠償請求を求めたものです。

 また,併せて,生徒のご両親も自ら原告として,県に対して,県が生徒の不登校の原因等についての調査報告義務を怠ったと主張して,債務不履行に基づく損害賠償請求を求めています。

 生徒の請求については,顧問の教員がバレー部の練習終了後,生徒を1人体育教官室に呼び出し,生徒が青森遠征を無断欠席したことを少なくとも1時間にわたり厳しい口調で怒鳴って叱責したことがあり,その際,感情的になって壁に鍵を投げつけたり,机を強打したりする場面があったことについて不法行為の成立を認めましたが,不登校との因果関係については具体的に検討してこれを否定し,県がこの指導による精神的苦痛についての賠償責任を負うことを肯定しました(認容額20万円)。

 もっとも,顧問の教員自身の責任については,最高裁判所昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁を引用して,公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合,国又は当該公共団体が損害賠償責任を負い,当該公務員は直接被害者に対して損害賠償責任を負わないと解するのが相当であるとして否定しています。

 また,生徒の両親の県に対する債務不履行に基づく損害賠償請求については,一般論として,以下の通り,学校側に生徒児童の保護者に対する報告義務を負うことを肯定しました。

 「公立学校の設置者と生徒児童の保護者との間には,公法上の在学関係が存在し,かかる関係に付随して,設置者は,信義則に基づき,学校やこれに密接に関連する生活関係における生徒児童の行状やそれに対する指導内容等について,その保有する情報に基づいて,保護者からの求めに対し,あるいは学校側から,教育的配慮の下,必要に応じて,保護者に対して報告をすべき義務を負うというべきである。そして,学校は,生徒児童に対し,同じく在学関係に付随する信義則上の義務として,学校生活における生徒の身体及び精神について安全配慮義務を負っているのであるから,生徒児童の身体及び精神等に重大な影響を及ぼすおそれがある場合や現にかかる事態が発生した場合には,安全配慮義務の履行の一形態として,事態の状況やその原因,経緯等について,その保有する情報を保護者に対して報告する義務を負うものと解するのが相当である。

 もっとも,学校は捜査機関ではなく教育機関であることから,その設置者が行うべき報告にはおのずと限界があるのであって,その能力上の限界による結果や,学校が当該生徒児童及び他の生徒児童らの健全な成長やプライバシー等に慎重に配慮した結果,必ずしも当該生徒児童の保護者が望む報告をしなかったとしても,当該学校の設置者が直ちに前記報告義務に違反したことになるわけではない。」

 本件では,具体的な事案について検討し結論として義務違反を認めませんでしたが,保護者に対する調査報告義務の存在を認めて,具体的に判断をした裁判例(他には札幌地判平成25年6月3日判例地方自治381号58ページ(義務違反を肯定)等)として先例的な価値があるものと思います。

以上

ちばスポーツ法研究会

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